何も考えてないのよ、私。知ってるでしょう?

第22部──フリーランスから会社員に復帰しました

タイ旅行記 1日目(バンコク)

島田君が「ゲイバーに行きたい。」って言ったときはさすがに、ぎくっとしたよ。まさか、彼がホモで、そんな人とゲストハウスの同じ部屋に泊まるのはまずいんじゃないかって本気で心配したね。なにしろ島田君とはタイ国際空港からカオサンに行くまでのエアポートバスの車内で知りあったばっかりでまだほとんど何にも知らないんだから。

エアポートバスで隣に座った島田君とはすぐに意気投合したよ。なにしろお互い初めての海外一人旅行だから、旅仲間ができてほっとしたね。なんとなく話の流れでこの後一緒に宿探しをすることや夕飯を食べることなんか約束して、雑談してたら、あっという間にカオサンに着いた。といっても1時間半はかかったんだけど。降車すると同時に雨が降り出してなんだか幸先が悪いなぁなんて言い合ってどこがカオサンロードだ?なんて話しているうちに、猛烈にぎらぎらしたネオンがまぶしい通りにでた。やたらたくさんの白人がいて、(日本人もたくさんいたけど)海賊版CDを販売している露店の店先からはガンガンにロックが流れていて。とにかく騒々しくて、すべての人間が興奮してるような感じだったよ。僕と島田君は重い荷物を背負って片手にはガイドブックでおまけにこの雨だから、とにかく早く宿を探そうってことで、ふらふら歩いてたんだけど、どこが良い宿か分からずたたずんでいたら、本通りから少し入ったところに、場違いなくらい清潔的な宿のレセプションが見えたんだ。さすがに高そうだねなんて話してたら、大学生くらいの日本人の男2人が寄って来て、「ここかなりいいッスよ。」なんて言うもんだから、疲れていたこともあって、一応値段だけ聞こうってことになった。そしたら以外に宿泊料は高くなくて、1泊ツインで650バーツ(2000円弱)。2人なら1人あたり1000円弱。当初考えていたよりは若干高いけど、まあいいかってことで、なんの迷いもなくツインルームにチェックインしたよ。(到着日の宿探しっていうのは本当に骨が折れるんだよ。)部屋に荷物を置いて、この後どうするか話していたら、「パッポンに行こう。」って島田君が言ったんだけど、ぼくはそれがどこにあるのかも知らなかったなぁ。「日本で言う新宿みたいなとこだよ。」っていうから「ああそう。」なんて興味なさそうに返答しちゃったんだけど、まあ要は歓楽街で、ゴーゴーバー(!)とかがいっぱいあって、夜遊びする人たちが行くようなところだってことは後から知ったよ。

パッポンはカオサンみたいに騒がしくて、通りを歩いていると客引きが寄ってきて「見るだけタダ。」とか「マッサージ?」とか言ってきて、それを追い払うのに相当に苦労したよ。店の外からはゴーゴーバーの店内が見えるんだけど、そこではブラックライトを浴びた水着の女の人たちが踊っていたよ。気に入った女の人と値段交渉してまとまったら、店外でデートするっていうシステムらしいよ。興味があったらぜひ、なんてね。そういった街なんだ、ここは。この時点でパッポンがどんなところか分かったんだけど、島田君は何が目的でここに来たのかいまいち分からなかったな。なにしろ、パッポンに来るまでの車中で「俺は女遊びは嫌いなんだ。」なんてことを相当まじめな顔で言ってたから、まあ露店でもひやかすのが目的なのかな、なんて漠然と考えていたんだ。
ひと通りパッポン通りを歩いて、そこの猥雑な雰囲気を味わってそろそろ飯にしようかなんてことを話していたら丁度目の前に飯屋があったんでそこに入店したら、なんともはやっていない店で客はぼくたちを含めて3人しかいなかった。店員は10人ぐらいいたのに。たいしてうまくもない麺を食べてすぐに、店を出たんだけど、そこで島田君が「ゲイバーに行きたい。」って言ったんだ。ぼくは、
「え?」
なんて気の抜けた反応しちゃって、
「いや、知り合いにいい店を紹介されたんだ。」
って島田君が言うから
「買うの?」
なんてまあ、かなり間抜けな質問をしちゃったんだ。
そしたら島田君は、
「いや、その気はないよ。」
って言うからぼくは、君はそのケはあるのかよ、なんて心の中で思ったんだけど、さすがに本人には言えなかったな。ぼくが相当怪訝な顔をしていたのか、島田君はちょっと狼狽して、
「俺はホモじゃないよ。」
って言ったんだ。やっとぼくの聞きたかったことを言ってくれたんだけど、その時点でもうぼくはあんまり、島田君のことが信じられなくなってたな。いいやつではあるんだけど、その色白でぽっちゃりしていて「長淵剛が好きなんだ。」なんてことを言っていた彼がなんだか、ただの肉欲にまみれたヘンタイに見えてきたんだ。

島田君は30分で戻るから近くのコーヒーショップの前で待ち合わせようっていって店内に入っていった。僕は待ってるあいだ、露店を眺めたりしながら、待ち合わせ時間になってコーヒーショップに行ったんだ。もし島田君がいなかったら、すぐにゲストハウスに戻ろうって考えてたよ。荷物を持って別の宿に移ろうって考えていたんだ。まさかゲイの人と同じ部屋に寝るわけにはいかないからね。だけど島田君は、いた。20分で店を出てきたらしい。ビールを1本飲んで店長と健全な(?)お話をして、すぐに出てきたらしい。店内ではパンツ一丁の男たちが音楽にあわせて踊っていただけであんまり面白くなかったよって感想を聞かせてくれた。なんだか、島田君がどんな趣味を持っているのか計りかねたけど、まあどうでもいいやって相変わらずの適当で能天気な判断をして、一緒にゲストハウスに帰った。

宿に着いたのは10時を過ぎていて、その夜は2人とも疲れていたから、すぐに眠りについた。横で眠っているのは男色家かもしれないのに、かなり疲れていたからすぐに眠りに落ちちゃったよ。
なんだかんだいってあんまり警戒してなかったのかな。考えすぎだったのかな?


タイ旅行