36歳でサラリーマンを引退するとはどういうことか

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サラリーマンを引退する。

社会に出て14年。何度か移籍を繰り返したが、36歳にしてついにビジネスシューズを脱ぐことを決めた。

今のチームで続けることはもちろん考えた。おそらく5月の内示でチームキャプテンを任される。内々にそのような打診は受けている。しかし、私はそれを応諾しない。なぜなら引退するから。

監督には過分に評価され、目をかけていただいた。基礎給与はほかのチームメイトより高く、賞与もいつも人より多く支給されていた。

監督と行動することが多く、早くからレギュラーメンバーに抜擢され、チームの主軸としてプレイしてきた。ほかのチームメイトが経験できないような最前線でプレイし、世界の一流選手たちと対峙する機会を与えてもらった。

おかげで成長できた。ひとえに監督のおかげだ。

移籍先を探すことも考えた。しかしふと、このチームを最後にサラリーマン生活に別れを告げてもいいかなと思った。理由はいくつかあるが、なによりも心と体の限界だ。同じくまだ活躍が期待できる時期に引退した千代の富士と同じ境地といえばわかるだろうか。あるいは中田英寿とも話が合うかも知れない。

サラリーマンとしての寿命はとうに切れていた。おそらく大学を卒業した年にすでに、余力は尽きていた。そこからリハビリ、移籍、退団、無所属、練習生、戦線復帰、活躍、ベンチ暮らしなどを経て、今最前線で活躍している。しかしそれもだましだましやっているに過ぎない。ちょうど中田英寿が足首の怪我を隠して満身創痍でプレイしていたように。

私の周りには同学年でまだまだ活躍し、今後も引き続き現役を続行し、引退など微塵も考えていないプレイヤーがたくさんいる。彼らは移籍さえもほとんど経験がない。1度していれば良い方だ。多くが、大学を出て最初に所属したチームに未だに所属している。衰え知らずの強靱な身体を持っているということか。

私はすでにズタボロだ。移籍を繰り返し、そのたびに消耗した。すでに最初の会社でプレイヤーとしての大事な何かを失っていた。だから移籍先で監督やチームメイトに、その欠落を看破されやしないかいつもおびえていた。その大事なものとはもちろん、ハートだ。ハートのないプレイヤーが輝くはずがない。ラモスに見つかったらどやされること間違い無しだ。

サラリーマンにもハートが必要だ。ハートを失ったら終わりだ。私は最初の会社でハートがブレイクした。そしてそのままハートがないまま36歳までだましだましでやってきた。ハートとは勤労意欲だ。これを失ったら終わりだ。そして、私は終わった。

すでに終わっていたが、終わっていることから目を背けてここまでやってきた。私だからできたと言える。デルピエロならドーピングに手を出していたレベルだ。マラドーナなら覚醒剤だ。元祖ロナウドなら、自暴自棄になって夜通し街に繰り出してサンバを踊りまくっていただろう。

36歳。引退にはもってこいの年齢だ。

引退をいつ告げるべきか。監督に申し出るのはいつどこでか。それが悩ましい。千代の富士なら親方に告白し、相撲協会に届け出れば良いだろう。私はもちろん監督であるところの社長に言わなくてはならない。

いつ言うかというと、ベストなタイミングは今月の給与明細をもらうタイミングだろう。具体的には月末だ。日にちは決まっていないがだいたい毎月最終週に一人一人監督室に呼ばれて明細をもらう。今月は27日ぐらいと予測する。

前述したとおり監督には期待されている。次期キャプテンにも任命される予定だ。任命の時期は5月だ。しかし、私はその前に引退する。キャプテンが嫌だから逃げたとは思われたくない。もし私が他チームに移籍志願するのならそう取られても仕方ない。しかし私は引退するのだ。もう二度とビジネスシューズを履かない。ちょうど日馬富士が二度と土俵に上がらないように。

3月末に引退宣言すると、最終出社日は3ヶ月後ぐらいということになるだろう。6月末か7月末まで引き継ぎ、引退。私は2年前の8月にこのチームに加入した。満2年での離別となる。

問題はどう切り出すかだ。やっかいな点がある。普通に言いだしづらいということはある。さらにいけないのが今月、賞与というか寸志が支給される予定になっているということだ。通例だと、私はほかのチームメイトよりも頑張っているということで少し多めに支給される。それは過去の実績に対しての報酬といえるが同時に今後への期待を込めての監督なりの先行投資ということもできる。

それを受け取って、すぐ後に、「引退させていただきたい」と申し出るハートが私にあるか。現状、難しいように思うが、しかし私は何しろ今まで10度以上、所属チームの監督に退団を申し出てきた実績がある。今回も気丈に振る舞うことができるのではないか。そう思っているが、しかし今回ばかりは気が重い。

しかし退団の意志を告げやすいともいえる。繰り返し言うが、引退なのだ。所属チームや監督、チームメイトや対戦相手、任されている役割やポジション、待遇などに文句があるわけではない。もっと本質的で、こう言って良ければ哲学的な退団なのだ。ほかのチームメイトはサラリーマンに拘泥し、おそらく向こう数十年この生活を続けていくであろう。しかし私は突如の引退。まだ全盛期、これから全盛期を迎えるであろうと周りに思われている時期に引退するのだ。ダイスラーのように特に精神を病んでいるわけではない。病んではいないが、意欲がない。ハートが欠落し、これは回復ができない。

こういったことを真摯に監督に説明すれば、穏便にことが運ぶのではないだろうかと期待している。むろん、かなり失望させることになる。チームはこれからさらに拡大する。いろいろなところから新たな仕事が舞い込んでいる最中だ。

普段は怒りなど微塵も見せない監督が、激高するかもしれない。悲しむかもしれない。想像するだけで胸が痛むが、それはしょうがない。こちらはサラリーマンを引退するのだ。そしてこの先も人生は続く。(勤労)意欲が消え去った後に、人はどのようにプレイを続けるのだろうか。

いずれにしても、今月がXデーとなる。最後の会社の最後の日がいつになるのか。今はそれを想像すると不安よりも強烈な快楽、気持ちの高ぶりを感じる。もしかしたら私は最初からチームに入団するような選手ではなかったのかもしれない。別の競技で活躍できる可能性も否定できない。とにかく、サラリーマンはお終いだ。春に別れを告げ、夏に引退。うれしくて、今晩も「いいちこ」を飲む手が止まらない。何杯目かわからないが、おかわりをもらおう。金曜日なのだ。名選手だって酒におぼれる。たとえば、己の才能におぼれるように、酒におぼれて表舞台から消え去ったポールガスコインのように。

 

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