読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

派遣で働いてよかったことと悪かったこと

十ヶ月間の派遣社員時代が終わった。

よかったことも悪かったこともある。

よかったことは、仕事が楽だったこと。ほとんど毎日定時で帰った。帰るときも罪悪感というものは微塵も感じなかった。仕事が残っていても、用事があったり単に帰りたくなったら帰った。それでも誰にも何も言われない。仕事でストレスを感じることがなかった。

残業代が出たのもよかった。零細企業はそんなものがないので。

いままで零細企業でしか働いてこなかったので、大企業で就業できたのはよかった。もしかしたらこれが一番のメリットだったかもしれない。

勤めている人の多くは礼儀正しく、理知的っぽく、ビジネスマンっぽく、日経新聞ダイヤモンドエコノミスト東洋経済的知識を有しているっぽく、いままでの同僚とは全然違うタイプの人種だった。金持ちけんかせずといった感じが、社内と言わず部内と言わず、漂い、ギスギスした空気など皆無だった。

トイレ掃除をしなくてよかったのも収穫だ。お茶がただで飲めたのもよかった。トイレがキレイなのもよかった。フロアが広いため、個人スペースが確保できたのもよかった。就業中頻繁に立ち歩いても誰にもとがめられないのもいい。いろいろなシステムを使えたのもよかった。勤怠管理やコミュニケーションツールや顧客管理ソフトなど大企業ではあたりまえのシステムも、零細業勤めだと使うことがなかった。そういったものを使えたのは収穫だった。自分のパソコンがハイスペックなのもよかった。零細だとそうはいかない。プリントし放題なのもよかった。カラープリントしまくってもなんにも感じなくなった。備品が充実しているのも助かった。あらゆるペン、ノート、文具がそろっていた。自宅のペンケースに会社から持ち帰った水性ペンが五本以上ある。

大企業なので取引先がみんな下請けなのもよかった。発注元の気分は楽なもんだ。尊大になってはいけないということを学んだ。根が下請け気質なので、そういった偉そうな態度は一度もとらなかったが。

人間関係のごたごたは皆無だった。何しろ、派遣社員は内部にいて、部外者だ。仕事、同僚、会社との距離感が最後までよくわからなかった。どの程度仕事をしていいのか、どの程度人と仲良くなればいいのか。かなり早い段階で、自分はゲストだと思うようにした。実際に周りの人たちはそのように接してきたので、それでよかったのだと思う。

責任がゼロでよかった。ミスろうが、消極的姿勢だろうが、何の痛痒も感じなかった。

あと有給も使いやすかった。六ヶ月後に十日付与された。

派遣が三十パーセントピンハネしているのを知ったのも良かった。

 

悪かったのは待遇面だ。

最初、派遣というのは時給が高いし、残業代も出るし、月給をある程度コントロールできるかと思っていたが、実際はそうではなかった。

時給が一千六百円だったので、残業すると時給は二千円にアップする。しかし、定時以降すぐにそうなるのではなかった。実働八時間以降が残業代が出る。定時が実働七時間なので、一時間は一千六百円の時給、その後の二時間以降が二千円。それで目算が狂った。あと、そもそも俺には勤労意欲がなかった。定時になるとすぐ帰った。残業して稼ごうなどという気概がまったくわいてこなかった。誤算と言えば誤算だが、実に自分らしいともいえる。

ということで月給は二十三万円ぐらいだった。ここから保険三万円、交通費二万が引かれると手取りが十八万円ぐらいになって、結構つらかった。ワープアだ。

ボーナスなどもちろんない。

あと、時間給なので休むとその分無給となる。1日休むのももちろん痛いが、たとえば半休すると、午前三時間休むと四千八百円の損失となる。これは痛い。五千円の罰金を科されるようなものだ。正社員だって痛いと思うだろう。これが薄給の派遣社員ならなおさらだ。結果、通院などで半休する気が起きなくなる。これは健康にも影響するので意外に大きい。

直接雇用の人たちは、半日休んでも給料に影響がなかったり、使い切れないほどの有給を消化するなどして対応するのだろうが、派遣にはそれができない。

福利厚生ももちろんない。時々、社内メールで、「社員・契約社員の方へ」という無神経なメールが送られてくることがあった。福利厚生やなんとかミーティングへの出席依頼だったりする。ミーティングはどうでもいいが、福利厚生面での直接雇用者優遇政策は本当に差別的だと思った。社長をいわしたろうかと思ったほどだ。

いやだったことはほかにもある。派遣社員という立場が恥ずかしいと感じることだ。これは入ってしばらくして感じるようになった。非正規雇用というのは何か劣っている人、かわいそうな人、被害者といったニュアンスがつきまとう。これが時短の主婦などなら派遣だろうが契約だろうが、何か理由があるのだろうと周りの人も忖度するのだろうが、若い男性となると、かわいそうな非正規雇用者という同情的な目で見られているような被害妄想が膨らんでしまう。これはたぶん、免れない。なってみないとわからない。一度飲みの席で話のわかる人に上記のスティグマについて話したが、「そんなこと気にしないけどなぁ」と言われ、まったく話がかみ合わなかった。

特に自分の能力が劣っているわけではないと思いつつ、給与その他の待遇が雲泥の差なので、正社員たちに対して強烈なルサンチマンを感じることになる。強者の側は、なんとも思っていないのだろうが。

そんなことで、俺は派遣という制度はなくした方がいいと感じた。全員直接雇用。福利厚生、交通費は正規雇用と同じ。

一緒に働いた人たちを見る限り、正規雇用の人たちが特段優れているわけではないということはよくわかった。文章能力、校正能力、事務処理能力、判断力、対応力、メール作成能力、知力、体力、人間力、転職力、逃走力、リクナビネクスト理解力、握力などはだいたいレベルがわかった。彼らは優れていない。

また大企業は極端な分業体制を敷いているので、自分の仕事以外わからない、できないという人たちが多かった。この辺はひたすらマルチタスキングをこなしまくる中小零細企業出身者のほうが処理能力的にも対応力的にも一日の長があったと思う。

彼らが優れているのは、ビジネススキルのみだ。やたらと横文字を多用するビジネストーク、日経新聞的知識のひけらかし、労働に対する時間・金・興味などリソースのかけ方など、良き労働者としてしっかりと自分を殺している。ぶれずに働く。転職しない。それが大事。

というわけで彼らは僕とはまったく違う世界の住人たちだった。

閑話休題。

悪いことは、待遇ぐらいだったと思う。特に交通費が出ないのが思いの外大きかった。月に二万円の損失。いままで当たり前のようにその二万円をもらっていた。それだけで四万円の差だ。交通費全額支給はすごい。

十ヶ月の派遣期間はその後の転職活動に悪影響を及ぼしたかというと、別にしなかった。

大企業の人たちは知らないが、俺のようなジョブホッパーが受けるような企業の人事は、派遣だろうが何だろうがあまり気にしていない様子だった。

事実、この数ヶ月で五社ぐらい内定を得た。これはかつてないほどの好成績だ。

なぜこんなにも好調だったのか、わからない。

一つは、求人数が増えている点が挙げられる。特に多く受けたインターネット系の企業は人が足りていない様子だった。また編集系の人間をほしがっているコンテンツ制作系企業が多く見られたようなきもした。

もう一つは、様々な手段で求職活動を進めたことが挙げられる。直接応募、派遣会社、エージェントなどなど。だいたいいつも一〇個ぐらいのサービスを平行して使っていた。これぐらい死ぬ気になって活動すれば、結果も出るというものだ。

いずれにしても十ヶ月の派遣生活は、キャリア的には何も問題はなかった。

たとえば、直接雇用(正社員、契約社員)を目指しているのに、なかなか仕事が決まらない人は、紹介予定派遣を活用すればいいと思う。数ヶ月働いた後に、直接雇用に至る求人だ。面接もだいたい一回で終わる。面接翌日には内定というところも多い。これは正直、かなり使える手なので、転職活動に行き詰まっている人たちにはぜひ活用しておらいたい。派遣期間中は例によって冷遇されるが、その後の直接雇用では人並みの給与と待遇を得られる案件がたくさんあるので、憎き派遣会社を利用して職を探すのも一手だと思う。

風呂入るわ。

SKE48 LIVE!! ON DEMAND