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ベンチャー企業の面接を受けた

ベンチャー企業の面接を受けてきた。
受ける前はベンチャーということを知らなかった。面接前にローソンのイートインで、企業の採用サイトを見ていたら「ベンチャー」というワードが出てきて初めて知った。マイナビの求人情報を見ると確かに社員数が12人とあり、設立以来5年連続増収増益とあった。
ベンチャー企業を受けるのは初めてだった。なんとなく体育会系のノリを想像してしまうので、自分には合っていない気がしていた。だから基本的には敬遠していた。
求人情報をあまり見ずに応募してしまったのを後悔した。
しかし数分後には面接なので、バックレるわけには行かない。
腹をくくって受けるしかない。
会社は青山にあった。賃料が高そうなエリアにオフィスを構えるとは羽振りが良い証拠だ。
傾いている企業より右肩上がりの企業の方が入社するにはいいに決まっている。
面接先企業は建物の地下一階にあった。エントランスはガラス張りで、オフィス内が見えた。白を基調とした清潔感溢れる雰囲気だった。入り口の脇にはバーカウンターがあった。これが噂に聞いていたベンチャーか。アフターファイブはここでジントニックとか飲んでダーツでもやるのかしら。
応対に出てきた女性は若く容姿端麗でこれぞベンチャーの秘書的存在といった感じだった。テレビやネットで見たことのある型どおりの人材だ。
通されたオフィスは、入り口脇にテーブル、椅子、ホワイトボードのミーティングスペースがあった。その隣にソファーのある応接スペース。背の低いキャビネットを間仕切りにして、向こう側が作業スペースとなっていた。ミーティングスペース、応接スペース、作業スペースがぶち抜きのワンフロアだった。
面接の声がみんなに筒抜けになるパターンだ。
社内には7人くらい社員がいた。
最悪なことに、社内は信じられないほど静かだった。みんな一心不乱にネットサーフィンしてるかのようにだんまりしていた。あるいは聞き耳を立てているのかもしれない。
この時点ですでに強烈に帰りたかった。
このベンチャーの雰囲気が生理的に嫌だった。
目の前が白かった。
オフィス家具、壁紙、テーブルなど何もかも白かった。白で統一された社内は清潔というより病的だった。ミーティングスペース、応接スペースには合計3つのホワイトボードがあった。その圧倒的な白璧が私を圧迫した。白過ぎる。目が回りそうなほど、白い。
バーカウンター、美人の秘書、白い社内。
これがベンチャーか。
美人がお茶を出してくれた。社内が暖房で暑く、乾燥していたので、グラスから茶を一口飲んだ。生茶だった。
7時からの面接で、5分前には入室していた。時刻は7時5分。まだ面接は始まらない。
ソファーに腰掛けていると、背の低いキャビネット越しに、2つ3つ社員の頭が見えた。1番偉い人であろう頭も見えた。彼が面接するのだろう。
社内はいつまでも静寂なままだった。息苦しいことこの上ない。いつもこんなに重い空気が流れているのだろうか。息がつまる。
地下一階というのもいけなかった。窓がなく、音もなく、沈んだ空気で、視界に入る全てが白い。まるで、潜水艦に乗っているようだった。人を不安にさせる静寂だった。
白を基調としたオフィス作ろうぜと社長が言ったんだろうな。これはオフィス設計完全に間違えている。病院の待合室だってこんなに白くない。
7時10分に面接官と美人が私の座っているソファーに寄ってきた。案の定1番偉いと思われた男性だった。彼が会社の代表だった。
まずは美人が私に自己紹介と志望動機からお願いしますと言った。
私ぐらいになると、面接官のこの最初の切り出しの巧拙によって、企業のレベルがわかるようになる。最初の雑談もなく、無機質に紋切り型の質問を発する企業は、面接官レベルが低いといえる。だから採用レベルが低い。だからもしかしたら私のような人材を誤って採用してくれる可能性もなくはないが、入室してからの数分でベンチャーは自分の肌に合わないと直感したので、私はもうすでにやる気がゼロだった。
適当に答えた後、重い沈黙が降りた。代表も美人も私も社内で聞き耳を立てている社員たちも全員音も立てず息を潜めていた。少ししてから、美人が事業内容を説明し出した。普通の面接ならば後半でやるようなことを開始5分で始めたのだ。慣れてないんだろうなと思ったが、私の方に1ミリもやる気が見られないのを察知して、早くこの面談を切り上げたいと思ってそうそうに締めに入ろうと機転を効かせたのかもしれない。ベンチャーの秘書は頭がキレる。
私は知らなかったのだが、この企業はいわゆるアフィリエイトが主業務らしかった。アフィリエイトというのは個人や個人事業主がやるものとばかり思っていたので、ぶったまげだ。アフィリエイトの会社に入社するのはちょっと。
手がけているサイトを見せてもらった。聞いてもいないのにこのサイトで二千万円売り上げがあるという。マジかよ。パクりたいと思った。なぜ、それを代表と美人の二人三脚でやらないのかと不思議に思った。きっと代表にはアフィリエイトの才覚があるのだろう。会社になどせずに、個人レベルでやればいいのに。それとも私のような素人にはわからないが、法人化するといいことがあるのだろうか。
全体の売り上げも聞いた。というか勝手に教えてくれた。社員数に比して売上高は大きいと、美人が言った。そうなんだろうなと私は思った。
しかし、アフィリエイトでやっていけるものなのか、私には全くわからなかった。
青山にオフィスを構え、バーカウンター付きの白過ぎるオフィス設計と、アフィリエイト専業。そして美人秘書。船底のように静かな社内で息を潜めて働く社員たち。
不安しかない。
かつて私をこんなにも不安にさせた企業はここより他になかった。
帰りたいというレベルを超えて、脱出しなくてはと強く思った。この船底から早めに地上に上がらなくては。
美人が事業説明してから代表に何か質問がないか話を振った。
代表は私に、この会社で何がしたいか、今の転職活動状況などを聞いた。
私はそれに一言二言短く答えた。その返答で彼らは了解したと思う。
「あ、こいつ帰りたいな」と。
しばらくの沈黙。面接に特有の沈黙。おざなりの沈黙。予定調和の沈黙。
何か質問はないかと美人に問われ、特にはないと答えた。
沈黙。
美人が代表に何か質問はないかと聞き、代表は、特にないと答えた。
沈黙。
そして、面接が終わった。
足早にエントランスに向かい、逃げ込むようにエレベーターに乗った。地上で深呼吸するとやはり地底の空気は澱んでいたと思った。
腕時計を見るとまだ7時20分だった。10分間の面接だった。私にとっては最短記録だ。
のどがひどくかわいていたので、面接前に入ったコンビニに再度入り、ジュースを買って飲んだ。たった10分の面接なのにとても疲れた。甘いジュースが強烈に美味く感じ、ゴクゴク飲み干した。糖分が体に染み渡り、活力が湧いてきた。
先ほどの企業は不採用だろう。いや、こちらからお断りだ。今度からは事前に下調べしてから求人に応募しよう。ベンチャーは無しだとわかっただけでも収穫ありとしよう。