退職理由について

退職しようかと思っている。理由はトイレだ。
会社のトイレはオフィス内にある。
男女共用だ。
洋式便器があり、珍しいことに男性用小便器もある。
いちいちスボンを下ろさずに小便ができるので、最初は便利だなと思った。しかし、最近、このトイレが悩みの種になっている。率直にいって強いストレスを感じてる。
会社は僕以外は女性だ。男性は僕だけなので、小便器を使うのは僕だけだ。
トイレ掃除は月毎に担当者を決めて行っている。
もちろん小便器にしろ、大便器にしろ、汚したらその都度掃除するのは、社会人として常識だろう。僕だって小便器のフチに小水をとばしたら、ティッシュでふくぐらいのマナーは持ち合わせている。
いやなのは、拭き取ったティッシュを捨てるゴミ箱がトイレ内にないことだ。大便器の方に捨てて流せばいいのかもしれないが、それはしない。流す音が外に聞こえたら敵に、うんこをしたと思われる。それは避けたい。敵はすべて女性なのだ。評価を落とすことになる。
自慢じゃないが、僕はまだ一度も会社内のトイレでうんこをしたことがない。といって、業務時間の中で一度もうんこをしていないということではない。僕はうんこに関してはちょっとした権威だ。それは、するさ。
うんこは、近くの図書館のトイレでする。だいたい昼飯の後の休み時間内にする。そのくらいのコントロールはできるさ。
それぐらい気を遣っているので、ティッシュを便器に流すなどという素人臭いことはしない。
汚れたティッシュはポケットにいれて、自席の近くのゴミ箱に捨てる。それだって敵に見られないように最新の注意を払っている。

最近、自分の小便を拭き取ったティッシュをポケットに入れることに耐えられなくなってきた。一滴、二滴だから、ティッシュがべちょべちょになることはない。でも気持ちいいものじゃない。でも拭き取らないわけにはいかない。社内には僕しか男がいないのだ。小便器の汚れがあれば、犯人は僕以外にはいない。

このストレスに耐えることができないや。
いつも小用の後に便器と便器の下の床を入念に確認する。一滴でも汚れがあれば拭き取る。逆に言えば一滴の見逃しが命取りになる。例えティッシュをポケットに入れるというストレスに耐えることができたとしても、小便のしずくの見逃しに怯えながら働き続けるストレスに、僕は耐えられない。

もし見逃して、掃除当番の敵にしずくのあとを発見されたら、僕はどうすればいいのだろう。敵の情報共有スピードをなめてはいけない。一日で僕の評価は地に落ちる。まだうんこはしていないが、今後働き続けたら、いつの日かうんこをする日が来るだろう。うんこ君と言われるのはどうにか耐える。でも、そこで例えばうんこをこびり付かせたままにしてしまったら。犯人は僕ではないかもしれない。誰だってうんこはする。敵もする。でも、トイレを汚すのっていつも男子。偏見以外のなにものでもない。社内は男子がマイノリティーだ。僕だけだ。僕に発言権などないし、僕がモラリストであることを擁護してくれる人はたぶんいない。
便器にうんこがついてたらそれでおしまい。犯人は僕。なぜなら、男だから。いまはまだ一度も会社内のトイレでうんこをしていないから、嫌疑はかけられない。しかし早晩容疑者になる。そんなのってない。ならば早期に退職すべきではないか。

それにいま思ったけど、小便にしたって、いままですべてのしずくを拭き取ってきたという確証はない。見逃しだってありそうなものだ。もしそうだとしたら、もう僕はすでに敵の中では、非常識な小便ジジイだ。どんな環境で育ってきたのか、出自を疑われる。そんなのってひどい。たどひとしずくのシッコで、人格を否定され、家族を否定され、人生を否定される。
そんなリスクを負ってまで、この会社で働き続けることができるだろろうか。
僕の人生をおしっこのひとしずくで台無しにされてたまるか。
僕は辞める。この会社を辞めるぞ。誰がなんと言おうと退職する。誰だって、僕と同じ立場ならば、会社を辞めるはずだ。僕は間違ってない。