ワコールホール

ソニー製の商品は、ある一定の期間がきたら故障するようあらかじめ設定されているという都市伝説を聞いたことがある。いわゆるソニータイマーというやつだ。

実際にソニーがそのようなことをしているわけはないだろう。しかし、ソニー製品がある日を境に突然調子が悪くなる、というのは多くのユーザーが経験しているようだ。

確かに僕も依然使用していたVAIOが使い始めて3年で調子が悪くなった苦い思い出がある。とはいえ、それはソニーに限らない。例えば、DELLのパソコンを使っていた時も、突然壊れて困った経験があるし、iPhoneだって初期不良の話はよく聞く。

精密機械なのだから、不良品が出るというのはなんとなくわかるというものだ。

しかし、ワコールの高機能タイツ「CW-X」に関しては、明確にメーカー側の悪意を感じざるをえない。CW-Xに穴を空けてしまったという話はよく聞く。いわゆる「ワコールホール」というやつだ。これは、穿った見方をすれば、タイツに穴が開きやすいようにして、新たなタイツを買い替えさせるというワコールの策謀なのではないか。僕はそう見ている。

いったい今まで何人のユーザーが、タイツの膝に穴をあけて落胆したことだろう。

転倒やスライディングなどで膝をついて、「やばい」と思ったらかなり確実に、タイツのひざの部分に穴があくことになる。

試しに、マラソンのレース会場や体育館で球技に励んでいる人たちで、CW-Xを履いている人の膝頭を注視してみるといい。CW-Xユーザーの多くは、ひざに穴をあけているのではなかろうか。彼彼女らは、穴をあけたくてあけたわけではない。誰も1万円から1万8千円もする高級タイツに傷をつけたいなどと考えるわけがない。彼らは余儀なく、膝に穴を空けてしまったのだ。

僕がCW-Xを買ったのは今年の1月だ。そして、2月11日に左のひざに直径1センチ大の穴が空いた。使ってから5回目のことだった。

フットサルをしているときに、左膝をつきながら右足でパスを出したときに「ワコールホール」ができたのだ。別にスライディングしたわけではない。本当に膝をついただけなのだ。それだけCW-Xはもろいのだ。なぜそんなにももろいのか。タイツを脆弱にすることで穴を空きやすくして、2枚目、3枚目の買い替えを促すというメーカーの謀略なのだ。

僕はまんまとその罠にはまった。ただ、残念ながら2枚目を買うほど、僕の財政は豊かではない。何しろ月給18万円なのだ。薄給なのだ。33歳で実家暮らしなのだ。手当なし、賞与なし。もはやこの薄給さえもワコールの責任なのでないかと愚痴りたくなる。

タイツを買い替えることができない僕は、残念ながら穴の開いたCW-Xを履き続けることになる。世の中の僕と同じような貧民のスポーツ愛好家たちと同じように、惨めな気持ちのまま体育館でフットサルをし、すれ違うジョガーに嘲弄されながら川沿いをジョギングすることになる。

僕はこのスティグマに耐えられそうにない。だから、全国の「ワコールホール」に悩まされている人たちと集団訴訟を起こそうとしていた。そんなとき、ワコールがCW-Xの無償修理を行っているという情報を得た。

調べてみると、公式ホームページのお問い合わせから、CW-Xの修理を依頼することができるということが分かった。早速僕は金曜の夕方にメールを送ってみた。土曜日、日曜日は営業していないだろうから、明日月曜日に回答が来るだろう。

いろいろ調べているうちに、ワコールさんというのはとても親切にお客様対応してくださる企業ということが分かった。情報によると、女性の顧客が多いのでクレーマー対応には力を注いでいるそうだ。不良品やワコールホールにも「神対応」してくださるらしい。いや、ワコールホールなんてない。そんなものは存在しない。いまさっき僕が勝手に拵えた造語だ。ワコールさんに失礼じゃないか。あえて貧弱に拵えているなんてありえない。ワコール様は本当に善良な企業だ。成功している会社にはそれ相応の発展している理由があるのだということだ。

素敵な会社だ。僕も来週末あたり、ちょっとワコール様の直営店でブラジャーでも買おうかと思う。最近は男性もブラをつけることが流行っているらしいので、感謝を込めて、ワコールさんを応援する意味でブラの3枚や4枚、いや、10枚ぐらい大人買いしようかしら。ふふふ。

CW-Xの修繕について調べていると、どうも修繕には条件があるらしい。真偽のほどはわからないが、縫い目の近くの穴は直せないだとか穴の大きさが大きすぎるのは直せないだとかがあるらしい。

僕の穴は直径1センチだ。これならばきっと直してもらえるだろう。ワコールさんならそのくらいの神対応はお手の物だろう。

そう思って余裕をかましていた。

今日、体育館で2時間フットサルをプレイした。穴あきのCW-Xを着用しようかどうしようか迷った。ワコールさんからの返信は多分月曜日に来る。もしかしたら穴の程度について聞いてくるかもしれない。1センチといえば、余裕で神対応してくれるだろう。しかし今日のフットサルでまた膝をついて、穴の程度が悪化したら、もしかしたら対応不可となってしまうかもしれない。

でも、まあ大丈夫だろうと軽い気持ちでフットサルに臨んだ。

結果、穴が直径2センチ程度に倍加した。もはや膝がスースーするレベルだ。己の浅はかさを呪った。

開始10分後には、膝をついていた。いとも簡単にワコールホールが拡張した。これでもしかしたらワコールは、僕のCW-Xの修繕を拒否するかもしれない。

僕は落胆した。しかしどうなんだろう。穴が大きいからって直せないなんてことがあるのだろうか。よく考えたらそれはおかしい。大きかろうが小さかろうが、無料修繕のサービスがあるのなら対応してほしい。いや、するべきだ。

じゃあたとえば、僕が切れ痔で肛門科にかかって、大きくケツの穴が切れているからと言って医者が「これちょっと切れすぎでなんでうちじゃ治療できませんわ」というだろうか。あるいは、「これはあまりにもデカいイボ痔なんで、お引き取り下さい」と患者を門前払いするだろうか。しないだろう。

要するにそういうことだ。

ワコールは、どんなことがあっても、いったん「ワコールホール」を修繕すると宣言したからには、直径が1センチだろうが10センチだろうが、快くご対応いただきたい。

でなければ、これはたんなるマッチポンプだ。

軽度な摩擦でタイツに穴が開くような設計にしておいて、ユーザーが不可抗力で膝に穴をあけてしまい、まるで敗残者の烙印を押すように膝頭に虚無的な穴をあけ、仲間に嘲笑され、自己の情けなさにいたたまれなくなり、結句、CW-Xを新調するように暗に仕向けることによって売上げ増加をたくらんでいると指摘されても、何も抗弁できないのではないか。また、小さな穴なら無償修繕するという「神対応」というやり方も偽善的な気がする。大きな穴も修繕しなければそれは似非神対応だろう。

お手並み拝見と行こうじゃないか。

僕のCW-Xを無事直してくれたら、僕は約束する。

ブラを10枚、パンティーを10枚購入する。そして毎日会社にブラとパンチーを着用して出社するし、転職の面接にも着用するし、フットサルするときもCW-Xのタイツ、ロングシャツに加え、ワコール製ブラandパンチーの完全装備でプレイするし、ハーフマラソンの大会にもそれら4製品を着用して疾走するし、帰りの銭湯でも周りの目を気にせず脱衣場で下着を可憐なお嬢さんのように艶めかしく着脱することをお約束する。

なんてことを書いていたら、もう、修繕とかワコールホールとかどうでもよくなって、ワコールさんのサイトで、ブラとパンチーをワンセット購入したくなってしまった。本当にワコールさんって魅力的な会社。ふふふ。