移住しない理由がない

移住したい。

なんでいままで移住しなかったのか。学校の先生はぼくに何を教えてきたのだ、会社の先輩は仕事ではなく移住の重要性をこそ教えてくれればよかったのだ、友人知人も誰一人ぼくに移住を提案してこなかった、本当にみんな狭量な考えの持ち主だ。いつの時代を生きてるんだろう。都会に定住とかいつの時代のはなしだ。

むしろ移住しない理由が見つからない。

一般的に移住の障壁として、「家族」と「仕事」があげられる。妻子がないぼくは別に誰に気兼ねすることなく、どこにでもいける。どこにでも漂泊できるし、遊動できる。実家住まいだから、引き払う家もないし、処分すべき家財道具もない。

地方に仕事がないというのはたしかにそうなのかもしれないが、これだってぼくの場合と一般の場合とでは事情がややことなる。

地方には、低賃金の仕事しかないといわれている。地方は低賃金だから、いまより年収にして数百万円下がる人もいるかもしれない。それはきつい。たぶん子どもがいる家族は、現実的にやっていけないと思う。

ぼくもこの問題には多いに悩んだ。低賃金は嫌だし、給料が下がるのも避けたい。でもよく考えてみたらこれはぼくには全然関係のない問題であることに気づいた。そもそもただいま現在の給料が薄給なのだ。たぶん移住先の「低賃金」と同水準。しかも扶養家族もいない。なら、移住しない手はない。いま都会で薄給で苦しんでいる人たちで、漂泊できる系の人たちはすぐに、今夜、列車に乗ればいい。

大都会東京は飽きた。まあぼくは横浜の閑静な住宅街に住んでいるわけだけど。横浜も東京も埼玉も千葉も大阪もぜんぶ一緒だ。とにかく、32年の「都会生活編」はこれにて終了ということで、次は「田舎編」へ。

で、移住先を選定している。

国内か海外か。これは国内1択だ。外国語ができないから。

寒いところか暖かいところか。寒いところは嫌だ。でも登山が趣味なので、長野、山梨あたりを候補に入れると、どうしても寒い地域にならざるを得ない。悩ましいところだ。でもやはり沖縄も選択肢の一つに入れておきたい。

「山」か「海」の問題も容易に解決できない。たしかにアルプスの麓で暮らしたい気はするが、寒いのが嫌だし、山がちの地域はどうしても暗い印象がある。海の近くなら、海辺でボーっと海面を眺め、書見をして、たまに屁をひねってれば、憂鬱症になることもあるまい。精神衛生上、山より海が暮らしやすい気がする。でもアルプスは捨てがたい。どうしよう。

地元の企業に就職するとか、農業林業漁業をするか、起業するか。

起業はない。知識も金もコネもない。おまけにぼくはガッツが悲劇的に欠落している。やる気がない。

農業とかも大変そうだ。まずは1年ないし2年、地元の農家なりで修行を積む。これはいろいろ自治体に、迎え入れてくれる制度があるのでいいけれど、独立後に金がかかるし、儲からないし、365日作物のことを考えてなきゃならないし、農作業を考えただけでも、いま、なんか、腰が痛くなってきた。

自給自足っていっても、たぶん、ぼくのようなシティーボーイはすぐに困難にぶち当たって遁走するのが目に見えている。

ならやはり地元企業に就職か。

仕事は正直なんとかなる気がする。また、32歳だし。

まずなにより移住先を決めなければ。

淡路島に移住した知り合いがいるので、一度訪れたい。長野の白馬に移住した知り合いの知り合いもいる。こういうコネクションを有効活用したい。

家人に移住計画を話した。彼女らは、ぼくの移住という思い付きを楽しんでいるようだ。余暇に遊びに来る腹積もりなのだろう。食事の席で、母親や姉に、「どこに移住したいの」みたいなことを難詰されて、たいへん閉口した。まだ選定中だ。考えてみれば、ぼくよりも年上で知識や経験があるのなら、家人がぼくの移住先をある程度絞ってくれてもいいものではないか。むしろ、君たちはぼくにどこに移住してもらいたいのか、しっかり向き合って考えてくれと、ぼくは心底思ってしまった。