本当の転職の話をしよう2014 ~転職の不可能性について~

今朝10時25分に、指定された貸し会議室が入るビルの前に着いた。今日はここで10時半からスポーツ用品店の採用説明会と個人面接が開催される。私は少し、採用される自信があった。私はいままで販売の経験はない。オフィスワークしかしたことがない。しかし逆にそういった人材のほうが企業にとっては新鮮味があるのではないか。販売しかやったことのない人たちとは違う着眼点や斬新な接客スタイルを提案できるのではないか。私こそ新風を送り込める大いなる新人なのではないか、そういった自信を胸に私は今日の選考会に臨んだ。

しかし、結局のところダメだった。

10時36分、私は切れましたよ、プッツンと。

10時25分にTKPスター貸し会議室新橋に入り、エレベーター前に立てかけてある案内板を見た。通常、こういった貸し会議室で企業の採用試験がある場合、何階が選考会場になっているか案内が出る。今日も確かに案内が出ていた。しかしそこに書かれていたのは、私が受ける予定になっている企業名ではなかった。

この時点でだいぶ嫌な予感がした。

このビルには4つぐらい貸し会議室が入っている。私は階段を上がり、1フロアずつ会場を見て回った。最上階まで上がってすべてのフロアを確認したが、私が受ける企業の採用試験はやっていなかった。

 

東京の気温は20度を超えていた。階段を駆け上がったせいで、私は汗をかいていた。私は心底うんざりしていた。8割がた気持ちは切れかかっていた。

エレベーターで1階におり、ビルを出た。そして会議室名を確認した。「新橋」。私はこの時点で、間違いに気がついた。選考会場は、「西新橋」だった。TKPスター貸し会議室西新橋。時間はすでに10時半をまわっていた。

 

携帯電話で人事の担当者に電話した。場所を間違えた旨、伝えた。担当者は、「新橋」から徒歩5分ぐらいで「西新橋」に着くので、少しぐらい遅れてもいいのでこれから来てくださいと優しく応対してくれた。

 

しかし、彼は知らないようだった。

その時点で、私の気持ちは完全に切れていた。プッツンと。

優しそうな人事担当者の申し出を私は断った。

「選考は辞退します」と。

 

人事担当者は、電話口で「え?」と言った。私は「エヘヘ」と応えた。

エヘヘ、まあ、私は今回の選考を辞退します。エヘヘ。なんていうか。ええ。すみません。

人事担当者は、何度か、まだこのぐらいの遅刻ならぜんぜん大丈夫ですよといってくれたが、私はその申し出を頑なに固辞した。

 

うんざりしていた。リクナビのWEBエントリーを突破して、郵送で送った紙の書類選考も突破して、やっと辿り着いた選考会だった。先述したように、私はこの会社に新たな風を送るべく、入社するはずだった。面接では、いま私がどれだけスポーツ用品の販売に携わりたいか、熱く語るつもりだった。

 

しかし私は会場に辿り着けなかった。心底失望した。こんなところにも関門があったとは。誤算だった。

悪いのは、大都会東京の雑踏であり、同じような建物が林立する新橋のビル群であり、貸し会議室に「新橋」と「西新橋」などというわかりづらいネーミングをつけた貸し会議室業者であり、アイフォーンの地図アプリであり、自社で選考会を開催しなかったスポーツ用品店である。そして無論、企業の採用方法にも問題がある。

私は常々言っているが、再度繰り返す。もし私を採用したいのなら、お前が来い。私を呼ぶな。大都会に呼ばれても、道に迷い、雑踏に佇み、人並みに押し流されて、犬のうんこのように路傍に打ち捨てられるだけなのだ。私は。

 

私には、無理なのだ。今後、どこかの会社の書類選考を突破しても、面接会場に辿り着ける自信がない。この大都会であらたな職場を見つけることは、私には不可能なのだ。もうやめよう。

 

私は「新橋」の近くのローソンでカロリーメートを買った。そしてローソンに隣接する小さな公園のベンチに腰掛けて、持参した紅茶を飲みつつ、カロリーメートを食べた。

 

今日は本当にかつてないほどの徒労感を味わった。気分が落ち込んでいた。私は目をつぶり、イメージした。「新橋」のローソンの横の公園の工事現場用の簡易トイレの横の植え込みの横の雑草の横の犬のうんこになる自分の姿を。

 

それでだいぶ自分を取り戻せた。アイフォーンでフェイスブックを開くと、友達の誰かが「いいね」した知らない誰かさんの投稿が目に入った。関西の島に移住して野菜を売って生活しているという。なるほど。ok。私もそうしよう。次のテーマは「移住」だ。東京で働くなんて前時代的なことは雑魚キャラたちに任せて私はこの町を出て田舎に隠遁しよう。サリンジャーごっこの始まりだ。