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あらかじめ予告されたエアー出勤の記録

エアー出勤

今日は会社で比較的やることがあった。
覚えている限り、ここ2年ほどは仕事で多忙だったという日は1日もない。これは、今の会社に入社してから2年が経過しようとしているので、入社以来まったく忙しくないということを意味する。

比較的忙しかった理由は、業務の合間に、パソコンとスマホを駆使して、SNSをやったりメールを頻繁に送っていたからだ。ツイッター、フェイスブック、mixiでいろいろな人と週末のスケジュールの調整を行っていた。フェイスブックで中学時代の知り合いのプロフィール画像を見まくったりした。しかしなぜ昔の知り合いの現在の顔写真を見るだけでこんなにも気分が滅入るのだろう?

今の私の席は、社員で唯一社長の視野に入ってしまうという、過酷なポジションだ。社長の目を盗んで携帯を操作することやSNSの画面からメッセージを送るのは、かなり神経を使う作業だ。この会社に入社して以来、人の目を盗む能力はだいぶ向上したように思う。なぜ私だけが社長から見える席に座らなくてはならないのか、不遇だなと思った。世の中は実にアンフェアだと思う。

私以外の社員が何をしているかは、あまり見ないようにしている。どうせ、たまに働いて、たまにネットをして、たまにお菓子を食べて、居眠りをして1日を過ごしているのだろう。大体そんなころだと思う。私と似たようなものだから、よくわかる。

しかしこれでいいのだろうかと思わないでもない。もう少し、本気で仕事に取り組むべきなのではないか、と半年に1度は考える。

私以外の人間がどれだけ今の状況に満足しているのかはわからない。基本的にあまり会話がないから、現状をどのように認識し、今後に対してどのような展望、不安、見通しを立てているのかまったく知らない。
だいたいいつも暇を持て余しているという状況に、焦燥感を持っている人もいるかもしれない。驚くべき薄給に将来のビジョンを描けず、転職を考えている人もいるかもしれない。そんなことすら考えないほどの無気力状態に陥っている人もいるかもしれない。私のように。

今日の午後、少し仕事をしてあとは狂ったようにSNSをやっていた。むろん、携帯の方でメールを送ったりもしていた。それだけで、時間は音速で流れて行った。

しかしふとした瞬間に手持無沙汰になってしまう瞬間もあった。
15時ぐらいだったと思う。来客があった。今の私の席は、出入り口との間に間仕切りがあるため、来客が来ても姿が見えない。だから、基本的には私は来客対応をしなくても済む。しかし、同僚たちは皆が無気力世代の代表選手のような人たちだ。そんな彼らが客が来て対応するだろうか。しない。

客人は、保険の営業か何かのようだった。そういう面倒な客が来ると先輩方は、椅子に同化したように完全に存在感を消す。私が彼らに心底感心するのは、そういう時だ。無関心もここまで来ると一種の特技になる。まったく恐れ入る。

仕方なしに、私がドアまで行って、営業を軽くあしらった。まったくなんで私が出なければならないのだと、内心不満だった。みんな忙しいわけではなかろうに。私はmixiで週末のフットサルの対戦相手を探さなくてはならないのだ。ツイッターのタイムラインを追わなくてはならないのだ。フェイスブックで昔の学友の現在の姿をウォッチしなくてはならないのだ。私はイライラしていた。

ドアをいくらか強く閉め、自席に戻ろうとして愕然とさせられた。
ドアの一番近くに座っている先輩が来客対応もせずに何をしていたかというと、フェイスブックだった。いったい仕事中に、しかも客人があったのになぜ悠然とフェイスブックをしているのだろう。見ると、画面にはその先輩の大写しの顔写真が載っている。自分の顔写真を投稿したのだろうか。まったく働きたまえよ、と激しそうになった。

私はそのような社会人失格の先輩を軽蔑の眼差しで見て、隣の別の先輩を見て、驚きのあまり大便が出そうになった。その先輩もまたフェイスブックをやっていたのだ。しかも鬼のようにコメントを書き込んでいた。いつも冷静で熱くなることのないその先輩が、フェイスブックに書き込むときだけは、一心不乱に熟練のタイピストのようにキーボードをタイプしていた。その熱意を仕事に振り向けたまえよと私は怒鳴りつけたくなった。

いったいこの会社にはまじめに働いている人間がいないのかと思って、横に目をやると、別の先輩が居眠りをしていた。やれやれと思った。この先輩は毎日、1日のうち8割方は眠っているのだ。眠りすぎだろう。社長からは病気を疑われているが、私はこの先輩が単に夜更かしをしていて、睡眠不足であるということを知っている。

彼らは皆忙しくて来客対応できなかったわけではない。ネットや居眠りで来客どころではないのだ。こんな人たちと席を並べていて、私は自分が堕ちて行ってしまうのではないかと心底心配になった。

自席に戻り、自分のパソコン画面を見て、私は一瞬ひるんだ。むろん、そこにはフェイスブックの画面がうつしだされていた。私は彼らと同じなのだろうか。いや、違う。私は客があったら、不承不承ながら席を立ってドアの前まで行く。他方、彼らは席を立ちもしないし、首をドアの方に向けもしない。その差は大きい。2人の先輩は、確かに私と同じようにフェイスブックをしていた。しかし、私は彼らとは違う。むろん、もう一人の先輩のように居眠りなどしていない。仕事中に眠るなど言語道断だ。
私は、彼らとは全然違う。そう思っている。