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私のための転職本を。

エアー出勤

renox2011-06-30

西村佳哲氏の『みんなどんなふうに働いて生きていくの?』という本を読んだ。
働き方研究家による出版社社長、カフェ店員、料理人、ソーシャルワーカーなど計8名へのインタビューを収めた本だ。
初見で、これは私のために書かれた本だとわかった。私が、世界中の勤め人に対して純粋無垢に発している問いがタイトルになり、それに対する答えがこの本に書かれていると想像できた。タイトルだけで強い興味をそそられたのは、城繁幸氏の『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』以来だ。書店で『3年』の表紙を見た時には、思わず心の中で「ぼくはここにいるよ」と呟いてしまった。しかしすぐに自分は1つの会社に3年も勤めたことはないと気付き、結局手に取った『3年』はそのまま書棚に戻してしまった(後年、ブックオフで購入したが、未だに積読状態)。

私の周りにも勤め人はたくさんいる。彼らは本当にすごいと思う。大半の人が1つの会社に5年も6年も勤めている。私の基準からしたら考えられない。私の場合は長くて2.5年だ。この2.5年にしても履歴書上でのことだ。履歴書はすこし手を加えているので、本当の最長勤続年数はもっと短い。何度も履歴書をいじっているうちに、実際の職歴がわからなくなってしまった。冷静に記憶をたどれば正確な職歴を思い出すことは可能かもしれない。ただ、6,7回転職を重ねているので、思い出すのは難儀なので、しない(1.5年から2年ぐらいだったはず。)

友人知人に面と向かって「どんなふうに働いて生きているの?」と聞いたことはない。多くの友人知人は、働くことは大変だと口では言うものの、なんだかんだで会社社会と折り合いをつけてやれているように見える。それはすごいことだ。私は嫌なことがあったらすぐに辞表を出すことでおなじみだ。ちょっとでもネガティブなことがあると別の会社に移ろうと考えてしまうフットワークの軽い人間だ。労働時間が長い、給与が安い、諸手当がない、上司が嫌い、事務所が汚い、会社まで遠い、夏はできれば働きたくない、社長の内縁の妻が怖い、漠然とした不安、など退職理由を数えだしたらきりがない。最近は、ネガティブな要因がないのなら自分で作り出して、会社を辞めるように自分をマインドコントロールすればいいじゃないかといった複雑な境地に達している。
勤続半年が過ぎた今の会社も安定軌道に乗ってしまったので、そろそろ刺激を求めて就職市場に飛び込みたいと思っている。最近は昼休みの公園でアイフォーンを操り、「リクナビネクスト」を閲覧する毎日だ。最近のトレンドは、「書店営業」だ。理由はないが29歳にして、なぜか無性に営業職に就きたくなっている。


今まで、20代のほぼすべてを捧げてきたといっても過言ではない我が「転職人生」に、幸はなかった。就職活動ごとに職歴を書き変えるのは骨が折れる。働きたくないのに、会社の面接で志望動機などを話すのは苦行だ。履歴書やスピード写真に一体いくらお金をかけたのだろう。2年連続のエアー出勤を思い出すだけで、胸が締め付けられる思いだ。転職するごとに行く、新横浜のハローワークのスタッフの視線が、痛い。向こうはわたしを覚えていないだろうが、こちらは何人かの顔を覚えている。初めてハロワに行った23歳の春と同じメンツが5,6人はいる。皆、相変わらず神妙な顔をして真面目に働いている。頑張っているなと思う。

『みんな』にもさまざまな職種の人たちが登場する。仕事に対して確固たるタンスを持っている。みなさんそれぞれ素晴らしい職業人だと思う。しかし、私は全く心が動かされなかった。なんの感興もわかなかった。うらやましいとは思わなかった。もちろん、参考になる意見は一つもなかった。私は自家製の料理を出すカフェになど興味がないし、徒手空拳で京料理屋を始めた異端児にも興味がない、出版流通の常識を度外視した出版社社長にも、世界中を旅してまわった若者にも興味がない。そういった人たちの考え方・働き方に興味があるのは一部の限られた人たちだけだろう。私のような三十路前のおじさんはそういった、「理想的な働き方」の指南書など不必要なのだ。私が知りたいのは、みんなどうやって職業を得たのかだ。ハローワークの求人は本当にブラック企業だけなのか。本当のブラック企業とは何なのか。楽して稼げる仕事は存在するのか。どうやって銭を稼いでいるのか。どのように貯金しているのか。利殖はしているのか。経歴詐称はしてもいいのか。年齢や学歴詐称は本当にダメなのか。30歳を過ぎると未経験職種への転職は難しいというのは本当なのか。辞表は電子メール的なもので提出してもいいのか。書店営業は楽な仕事なのか。29歳で転職5、6回は多いのか少ないのかなどが知りたいのだ。特殊な働き方をしている人たちの話など聞きたくない。参考にならない。

この手の本に警鐘を鳴らしたい。最初に気がつくべきだった。タイトルからして私向きの本ではなかったのだ。「みんなどういうふうに働いて生きているの?」なんていうセリフを29歳の成人男性が言うだろうか。大学生だって言わない。これはどう考えても中高生以下の子供のセリフだ。つまりこの本の想定読者は未就労年齢層なのだ。だから私がこの本に興味を覚えないのは当たり前なのだ。子供向きの本だったのだ。この本だけではない。ベストセラーになった村上龍氏の『13歳のハローワーク』もそうだ。子供たちにいろいろな職業を紹介するのはいいことかもしれないが、今必要なのは13歳の子供たちのためのものではないのだ。若者の失業率が高いのは確かに社会的に問題だ。彼らには確かに手を差し伸べ、大人が職業案内してあげる必要があるだろう。しかし、彼らは若い。年齢で差別されることはない。今必要なのは歳をとって社会から放り出されてしまったおじさんたちなのだ。29歳であり、39歳であり、49歳のための『ハローワーク』本を緊急出版するべきだ。龍さんならできるから。昔から社会の暗部を鋭くついてきたじゃないか。『限りなく透明に近いブルー』も読んだよ、俺。『コインロッカーベイビー』も読んだし、『5分後の世界』も『ヒュウガウイルス』だって図書館で借りて読んだよ。最近の本だって、『半島を出よ』を新刊で買って読んだよ。上下巻。面白かったよ。最後の社会派作家、村上龍。龍さんしかできない『ハローワーク』本を出版してくだしゃーい。りゅうさーん。りゅうしゃーん。どっらごーん、やーい。
『29歳のハローワーク』、幻冬舎から出版してみろ! 君ならできる!!