久しぶりに山へ行った

過日、奥多摩へ登山に行った。
勤めている会社の社長と、仕事で付き合いのある文筆家とその仲間たち、総勢約15名。
毎年この時期に山頂で忘年会をやっているとのことで、今年も例年通りの「忘年登山」。
半数は、登山口から2時間半ほどかけて登り、残りは食材や調理器具を持って登るためロープウェーを使って登った。
僕は歩いて頂上に登った。今夏に丹沢で2度登山をしたので、今回のレベルの山なら楽に登れるだろうと思ったし、実際登ってみたら予想通り容易に登頂できた。登りやすいことで有名な高尾山よりは多少大変だったが、それでも息が切れるほどでもないし、汗をかくほどでもない楽な登山だった。

参加者の中には会社員、文筆家、大学院生、派遣社員、乞食のような人、職業不詳の人など多様な職業の人たちがいた。

中でも、僕は職業不詳の髭面のおじさんに強い興味を覚えた。長髪。背は180センチぐらいで、がっちりとした体つきをしていた。黒縁メガネの奥の眼光がとても鋭く、正視することができないほどだった。口数は少ないものの、話し方は非常に温厚だった。登山中はほとんど口を開かず、誰かが話している横でそっと微笑んでいた。背筋を伸ばし、ポッケに手を突っ込んで歩いていた。その姿を見て、僕はこの人はあまり登山をしない人なんだろうなと思った。というのも、たぶん登山家はポッケに手を突っ込んで山を登ることはないだろうと思ったからだ。今回の登山は割と楽だったが、ごつごつした岩や滑りやすい土の上を歩く箇所もあった。だから当然ベテランの人たちはポッケに手を突っ込んだりはしていなかった。僕はパーティーの中では最年少で割りとチョロチョロ動くタイプというか、動物で言えば猿のようだから、今回のような登山でも飛び跳ねるように歩いた。ベテランの登山家に怒られるかと思ってポッケに手を入れて登るのは遠慮していたけど、このキリストみたいなおじさんが誰にも何も咎められないから、僕も途中からその人の真似をしてポッケに手を突っ込んで登った。パーティーの隊長的な人は文筆家で割りと口うるさい人だった。というかそういうキャラを演じていた。ベテランの登山家でもあったから多分ポッケに手を突っ込んでいるのを見られたら怒られたかもしれない。ただキリストのおじさんは誰かに何かを咎められることはきっとないんだろうなというような超然とした雰囲気が漂っていた。だから僕もそれに便乗した。まあ、隊長的な人は先頭にいたし、1列に並んで登っていたから見咎められることはなかったし、そもそも文筆家がそんな細かいことをいちいち注意しないかなとも思わないでもなかったけど。って、まあでもポッケに手を突っ込んで登山するのはちょっと危険を伴うから、隊長的なポジションの人は一応の注意はしていたかもしれないけどそんなことはどうでもよくて、そのキリストのおじさんの前には乞食みたいなおじさんがいて、その人にも僕は強い興味を持った。小柄で、服装はとても汚いというか、林業に従事しているのかなっていう感じの人で仕事着のまま来たような小汚い感じだった。汚い野球帽をかぶって、足袋みたいなものを履いていた。背負っていたカバンは手製のものらしく、ゴザを丸めたようなぼろぼろな代物だった。始終酔っ払っているような妙なテンションだった。電車の中にいたら近くによりたくないタイプだ。その人とキリストのおじさんは大学の先輩後輩の関係とのことでしかも京大を出ているということで人は見た目によらないなあと思った。その二人は頂上でも自由に振舞っていた。キリストのおじさんは、皆がなべを食べているときも一人草の上に寝転がっていた。上着には草が大量に付着していたけどそんなことはどうでもよいといった感じだった。乞食のおじさんは、コップや皿なども手製のもので、すごいなと思った。また、それがものすごいひどい出来栄だったのもまた逆にすごいなと思った。結局最後まで2人の職業はわからなかった。乞食のおじさんは多分山で働いていると思う。登山の途中、杉の伐採方法などを力説していたから。キリストのおじさんはまったくわからない。子供はいるようだ。背負っていたピンクのリュックは娘に借りたものだと言っていた。とにかく常識とか既成概念とかルールとかから逸脱している感じが良かった。自然で自由すぎる人たちだった。
ともあれ、出不精なことで有名な僕だが、忘年登山で色々な人と知り合うことができてとても有意義な時間をすごせた。