読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

27歳男、リーマンショック後にエアー出勤をする⑭

エアー出勤 転職活動 2009年エアー出勤

『前回までのあらすじ』
特にありません。



先日センター北の映画館で『ベンジャミン・バトン』という作品を観た。映画を見終えて時計に目をやるとまだ昼過ぎだった。帰宅するにはまだ早すぎる。私は少し思案した。そして「暇だし、企業の採用試験でも受けに行くかぁ」と一人ごちた。

映画館が入っている複合施設を出て、近接している別のビル内にあるマクドナルドでハンバーガーとポテトを食べた。やはりマックは落ちつくなと改めて思った。国内、海外を問わずやはり旅先ではマックに入店してしまう。今回の旅でも何度となく利用させていただいている。料金が安く、美味いといえば美味く、不味いといえばこれほど不味い料理もないと言う不思議な料理だ。
世の中にはマック反対派も少なからずいる。不健康だ、不衛生だ、安直だと批判を述べる。ハンバーガーに使われている肉には、鼠肉だかミミズだかが入っているとかいう噂は都市伝説として定着している。数年前には、毎日マックだけを食べ続けるとどれだけ不健康か検証するドキュメンタリー映画が公開され話題になった。また信頼できる情報筋から、以前友人のK太郎君が1週間ぶっ続けでマックを食べて血便が出たという話も聞いた。しかしそれ込みで、いやだからこそ、良しと思うのだ。やはり大衆向けの料理はそのぐらいパンチが利いていてかつポップでアバンギャルドでなくてはならない。だからこそ市民はマックに群がるのだ。血便だか血尿だかを出したK太郎君だってきっといまだにマックを食べているにちがいない。それほどマックは人を落ち着かせる魅力を持っているのだ。
料理は、味や栄養価だけでは評価できない。使われている食器や給仕の質、店の雰囲気などをトータルで評価すべきだ。その点、マックは他の料理店とはレベルが違う。どんな阿呆面でも、どれだけ話すことが無内容でも、どんなに食卓のマナーがひどくても寛容に店内に迎え入れてくれる。そして安価でかついつもの水準の料理を供してくれる。嘘だと思うなら、自分の経験を思い出してほしい。自分の顔を鏡に映してみてほしい。ね? あなた方の中で一度でも入店を拒否されたことがある人がいるだろうか。おそらくいまい。私のような無職者だって断られたことがないのだ。全く驚くべき事実だ。


午後14:30、私は面接を受けるために企業の応接間にいた。
業務スペースと応接スペースが一枚の間仕切りで仕切られているだけのその場所で私は企業が用意したエントリーシートを記入していた。
名前や住所、学歴などを完璧に書き入れた。このように言うと、そんなの当たり前ではないかと茶々を入れる輩がいるが、それは間違っている。というのもこのような正式な用紙は、ボールペンで書き入れるため、履歴書などを作成するときと同じだけの注意力を要する。いや、書き損じた場合、新しい用紙をもらうわけにはいかないので、履歴書記入よりもさらに難易度は上がる。
記入事項の3/4ほどを瑕疵なく書き入れた私は、ある項目を見て固まってしまった。その項目とは次のようなものだった。
「長所(はなんだ。お前が27年生きてきて獲得した他者に負けない人格・技能面での強みはなんだ。言ってみろ! せせこましいこといいやがったら承知しないぞ。コラッ、ワレッ! 恥ずかしがらずに言え! さあ!)」
ご承知の様に、このような質問は採用面接を受ける上では幾度となく浴びせられるたぐいの質問である。この種の質問に対して、恥ずかしがらずに大声で答えられなくては社会人になどなれない。このような質問にいちいちたじろいでいては就職も覚束ない。
それに対応できなかったため今現在私は無職なのであり、また今まで何度も転職を繰り返してきたのである。
しかし私も場数を踏んできた。長所は何か書き入れろと言われて、「くだらないね」などと子供じみた答はしない。
私は、大きく太い文字で次のように書き入れた。
「誠実」、「真面目」、「正直」。
キマッタと思った。好青年と思われるだろうなと照れ笑いした。そして、採用されるなと小さな確信を抱いた。
私は採用担当者を呼び、記入を終えたと告げた。そしてしばらく待っていろと言われたから待った。5,6分待った。その間、私は先ほどの確信が自信に格下げされ、自信が期待になり、期待が予感になり、不安に変わるに至って帰りたい気持ちになった。
私は誠実でもなければ正直者でもない。ただの嘘つきだ。
そう嘘つきなのだ。

私は、エアー出社などしていない。