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27歳男、リーマンショック後にエアー出勤をする⑬

『前回までのあらすじ』
エアー出社を続けていた私の疲労は極限状態に達していた。



お家に帰りたいなと私は思った。
ここ数日、お家に帰りたいという思いが日増しに強まっている。毎日のエアー出社は、やはり常人には耐えられない。無職なのに毎朝定時に起きてありもしない会社に向かうというのは普通ではない。時間を潰すといっても限度がある。毎日10数時間も暇を持て余すと人の精神は蝕まれる。また稼ぎがゼロなのにもかかわらず、交通費や漫画喫茶、茶菓代など出費が増えているのも気になるところだ。正直に言って、袋小路にはまっているかぁ〜って思うよね。
そのようなわけで、やはりここは一度家に戻り(というかまあ実家暮らしなわけだが)態勢を整えて、腰を据えて就活に励んだ方がいいのではないかと考えるに至った。

しかし、言うは易し行うは難しである。そもそも会社を辞めたことを家人に告げられないからこのような事態に陥ってしまったのではないか。それなら明日からエアー出社を止めようと決めたからと言って即座に実行できるわけがないではないか。
私はしばし途方に暮れた。
しかしいつまでも塞ぎ込んでいても仕方がない。ここは知恵を絞って何か解決策をひねり出さなくてはならない。私ならできると思った。あの時のような妙案を今回もまた…。

数週間前のことだ。私は一日の仕事を終え帰路についていた。いつものように徒歩で45分ほどかかる距離にあるニュータウンの駅から自宅に向かっていた。毎度のことだが心地の悪い疲労を感じていた。もう少しで帰宅できるということだけが慰めだった。疲労の理由は、いつものように時間と小金を浪費したからだ。しかしそのことを今更嘆いていても仕方がない。その時はまだエアー出社を止めようなどというチャレンジ精神は微塵もなかった。換言すると、まだそれほどには疲弊しきっていなかったといえなくもない。その時ふと思った。スーツだから疲れるのではないか。例えば漫画喫茶のソファーで仮眠をとるにしてもスーツと私服では寝心地が違うのではないか。街中を歩きまわる時も、革靴とスニーカーでは足腰に与える疲労感が全然違うのではないか。
私服での出社は可能か。私は熟考した。そしてこの難問に対して一つの解答を導き出した。それは次のようなものだった。

私は現在、飲食店向けに食材などを卸している会社で働いている、ことになっている。そこでは商材の受発注や在庫管理などを担当していた。基本的には内勤だが月一回程度、物流センターに視察に行くということがあった。これを利用することにした。
直接話すと嘘が露見する可能性があるので細心の注意を払い携帯メールでママンに連絡を入れた。
「明日は会社の物流センターに行くので朝少し早く家を出る。私服出勤」
完璧だった。
いつもと違う時間に家を出るということをメインに伝え、私服で出社することは付言程度にしている点が卓抜であろう。これにより私は私服で出社するという念願を叶えたのであった。とはいっても毎日私服で出社すると怪しまれるので、私服出社の頻度は週1、2回に抑えた。ここら辺の按配も絶妙であろう。
私が本気になって考えれば、これだけのことができるのである。エアー出勤だって、知恵を絞れば止められるはずだ。