27歳男、リーマンショック後にエアー出勤をする⑫

『前回までのあらすじ』
エアー出社を続けていた私は、疲弊していた。1か月以上にも及ぶ放浪は精神・肉体・財政に小さからぬ打撃を与えていた。そして私は決心した。この小旅行に区切りをつけよう、と。

1日のスケジュールはほぼ固定していた。ルーチンワークだった。
毎朝6:15に起床。7:30に家を出て45分ほどかけてニュータウンまで歩く。そして駅構内にあるマクドナルドでホットコーヒー(120円)を注文する。そこで2時間ほど読書をする。その後電車に乗って桜木町に行く。
私がなぜ朝45分歩くかというと、それは時間を潰すためだ。1日を無為に過ごさなければならないので、自宅から徒歩10分の距離にある最寄り駅に行くなどという愚行は犯さない。ニュータウンの駅までは、電車を乗り継ぐと30分ぐらいかかる。もちろん運賃もかかる。より多く時間を潰せてなおかつ倹約できるのなら徒歩を選ばない手はない。


桜木町には横浜市中央図書館がある。宿なしの人間が図書館に居座るというのは今も昔も変わらない。中央図書館にもたくさんの宿なしがいる。一目でそれとわかる者、強烈な異臭を放つ者、傍目には普通の人に見える宿なしも多数いることだろう。
この施設は非常に充実している。蔵書数、閲覧スペース、スタッフの対応などすべてが高いレベルにある。さらに4Fの個人学習席には電源が確保されている。この席はノートパソコン利用者が大半を占めている。

私はこの旅で実に多くのことを学び、また多くのものを手に入れた。
そのひとつに公太郎君からただ同然で譲り受けたノートパソコンがある。SONY製の小型ノートパソコンで持ち運びに便利な逸品。しかし常時アダプタを接続していなければ起動できないため、電源のあるところでしか使用できないといった難点がある。エアー出勤者としては、ノートパソコンがあるのとないのとでは、無職ライフの充実度が全然違う。1日中読書をしているわけにもいかないし、ファミレスでうたた寝し続けるわけにもいかない。PCがあれば、ネットサーフィンできるし駄文を書き連ねることもできる。これほど暇つぶしに最適なツールはない。
私が屋外で調達した電源は、主にマクドナルドと横浜市中央図書館の2か所だった。しかし前者はコンセントがある場所とない場所があるため、電源を使わせてもらえる店舗を探すのが大変である(電源が使える店舗:新横浜駅前店、日ノ出町駅前店他)。また入店するということは最低でもコーヒー代がかかる。できれば余計な出費を抑えたいので、無料で利用できかつ個別の勉強机が利用できる中央図書館は非常に重宝した。

私が獲得したアイテムはノートパソコンのほかにもある。
おにぎりだ。
収入がないのに出費ばかりが嵩むと財政が破たんする。
そのためなるべく支出は抑えたい。昼飯を自家製おにぎりにするだけで、一日300〜400円程度節約できる。ひと月に20日出社するとして、毎月6000円〜8000円も経費が削減できる。
そのおにぎりは中央図書館の地下1階で食べた。原則、館内は飲食禁止だが、地下1階のコミュニケーションルームだけは許されている。

中央図書館には大体毎日午後15時ぐらいまでいた。
その後は近隣エリアをさまよう。この時間は、1日で一番ハードだ。金を使わずいかに時間を潰すか。いつも大体、歩く。しかしこの時間のことはあまり話したくない。話そうにも覚えていないのだ。意識が朦朧としていた。関内にあるハローワークに行ったり、伊勢崎モールにある漫画喫茶に行ったりしていたような気がする。

この時間をやり過ごせばもう勝利を確信していい。
あとは帰路の電車に乗れば良い。ニュータウンの駅まで行き、そこで帰宅時間の調整を図る。まっすぐ帰宅するには時間が早すぎるのならば、朝行ったマックでまたコーヒーを飲めばいい。店員の目は気にするな。朝8時過ぎと夕方18時過ぎの店員が同じ人間などということはめったにない。大丈夫だ。
宵闇の街路は心踊る。何といってももうすぐ帰宅できるのだから。しかしそのような晴れやかな気分はすぐに消え失せる。そして暗鬱な気持ちになる。

1日中完璧に無駄な時間を過ごしたのだ。誰が何と言おう今日1日、何一つ達成しなかった、何も得られなかった、何も生み出さなかった。明日も明後日もこの状況に変化はないはずだ。
しかし、そう考えられるようになれば、未来に一条の光が差し込んだようなものだ。
現状に甘んじていたら成長などできるはずないではないか。チェンジだ。変革の時だ。家は近い。
帰ろう、お家へ帰ろう。
もう、エアー出社は止めようと誰だって思うはずだ。