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27歳男、リーマンショック後にエアー出勤をする④

『前回までのあらすじ』
転職活動中の私は、白楽までP社の採用面接を受けにいった。



15:00にP社に着いた。
この求人はハローワークで見つけた。要するに幸先はすこぶる悪いというわけだ。
会社の建物の下に着いて私は途方にくれた。
面接は15:00からのはずなのにこの時間になっても社員が一人もいなかったのだ。
いやしかしそれはそんなに不思議なことでもないのかもしれない。
というのもハローワークで入手した求人票によるとP社の社員数は2名とある。ならば全社員が出払っていたとしてもおかしくはない。ただ求職者が定刻に来ているのだからせめてその時間には居てよ、と思わないではなかった。
P社はマンションの一室にオフィスを構えている。この3階建てマンションすべてがP社の資産であり、このほかにも数棟の不動産を所有していると後に知った。それを賃貸するのがP社の主業務だという。
私は不動産業界では働いたことはないが、新たな挑戦としてこの業界に殴り込みをかける心持でP社の採用面接を受けに来た。
定刻より5分ほど遅れて小太りの男が現れた。断言してもいいが、この男が社長だと言うことだろう。あるいは、確信を持っていえるが、この男が社長ではないとしてもかなりの要職についているものと推察できた。おそらく副社長あたりではないだろうか?
男は小さく侘びを入れてから、私を地階のオフィスに通した。
室内は雑然としていた。ひとつだけある事務机の上には書類が散乱していた。
また床にはダンボール箱がいくつか転がっていた。どうやらお引越しして間がないようだ。というか来客があるのは事前に分かっていたのだから掃除ぐらいしていてよと思わないではなかった。
机上や地面の汚れ具合よりも気になったのは壁面に貼り付けられた紙っぺらだった。
予定表らしきもの、何かの覚書らしきもの、黄ばんだメモ書きなど壁面を覆うように矢鱈と貼り付けてあった。しかし私が気になったのはそのようなメモ書きではなく、5,6枚張ってある選挙用ポスターのほうであった。それらはすべて同じものだった。次期衆院選に立候補する予定となっている男が、公認政党の党首と握手をしている。小政党の党首と笑みを交わしながら握手をしている男は、まぎれもなく今私の目の前に居る小太りの男であった。
私はそれを見て、政界進出も悪くないなと思った。
私が日本の腐った政治を変えてやろうではないか! この未曾有の経済不況から日本を救ってやろうではないか、身にしみて感じるこの雇用不安を払拭してやる!
目の前にいる会社社長(あるいは副社長)と一緒になればそれもできそうな気がする、って、不動産業務はどうした! お前求人票に書いてある内容と違うではないか! だからハローワークの求人はいやなんだよ。いつも記載内容に虚偽がある。給与、手当て、就業時間はまあこれは嘘を書いていいよ(いや本当はだめなんだけどね、もう慣れた)。ただ業種、職種は嘘を書かないでほしい。と思って男に質問しようとして止めた。まだ男の口からなにも説明を受けていない。まずはあなたの説明を聞こうではないか。
男は言った、「塾の講師からはじめないか?」
私は苦笑した。不動産賃貸管理事務ではなかったのか!? 求人票にはそう記載してあったぞ。百歩譲って政治家だろう。お前が次期衆院選に出るなら私も出ようではないか。あるいはまだ私の出馬が時期尚早ならば秘書からでもこちらは受諾する意志はある。しかしなぜ塾講師なのか、私はその点をお伺いした。
「教養の問題だ。何事もファンダメンタルの部分が肝要だ。土台がないとどんな仕事もできない。だからお前はまず小中学生に算数、英語を教えることで教養を磨け。話はそれからだ」

私はこの提案を固辞し、その場を辞去した。

就職が決まるまではまだ時間がかかりそうだ。