撤退5

【前回までのあらすじ】
働こうと思った。






今日は朝から胸糞が悪くなった。
今朝は7:00に起床し、コーヒーを一杯のみ、7:30に床に入り、8:45に再起床した。
再起床後、シャワーを浴び本日2杯目のコーヒーを飲んだ。
コーヒーを飲みながらテレビを観ているときに、今日は燃えるごみの日だということを思い出し、ゴミ箱の中のごみや台所にある生ごみを集めてマンション下のごみ集積所に持って行った。
私は通常、ごみを出しに行く時間を9:06ごろと決めている。なぜならばその時間なら同じマンション内に住んでいる人たちと顔を合わすリスクを軽減できるからだ。多くの人は、朝通勤前にごみを出すはずだから、私はその通勤者と遭遇しないような時間にごみを出すように心がけている。経験上7:30〜8:15の間がもっとも危険な時間帯のように思われる。大方の人が9:00に出社すると仮定して、私の住んでいる町から都心までの所要時間を考慮に入れると、7:30〜8:15に家を出る人が多いとおもうからだ。
もちろんそのデンジャラスタイムを避けたとしても、主婦や学生や無職の人たちに遭遇してしまう可能性はある。しかし無職の私にとってはなんといってもスーツを着て職場に向かう勤め人とニアミスするのが一番心苦しい。彼らとの遭遇は是非とも避けたいところだ。
また9時ちょうどにごみを出しに行くのも良くないように思われる。なぜなら「9:00になったら〜しよう」と決めて行動をする人がいる可能性があるからであり、「9:00になったらごみを出しに行こう」と考える人と収集所でニアミスするのも出来れば避けたい。だから私はなるべく9時ちょっと過ぎにごみを出しに行くよう常日頃から心がけている。そのような細心の注意を払いつつごみ出しを行っていることが奏功し、今までのところ大きな事故には一度もあっていない。

今日は9:20にごみを出しに行った。いつもより少し遅い時間だが悪くない時間だったと思う。ただ「20分」というきりのいい時間がすこし気がかりではあった。この時間なら勤め人に遭遇することもないだろうと考えていたが、その考えは間違っていた。今までのゴミだし人生の中で最も多くの人に遭遇してしまった。3人。しかも3人とも私と同年代の若者であり、2人がスーツに身を包み残りの一人が女学生風だった。最初に遭遇したのはリクルートスーツのような服を着た若い女性だった。私が1階に降りようとしたところ、2階と3階の間の踊り場から(私のいる)2階に降りてこようとしているその女性と遭遇した。私は多少狼狽したが持ち前の俊敏性を発揮し、彼女の前に体をいれ加速を上げて階下に向かった。背後にその女性がいることを感じつつ猛然と収集所に向かっている途中、ごみ収集所のほうから女学生風の人がこちらに向かってきた。私はほとんど取り乱していた。前門の虎、後門の狼。私は一瞬躊躇したが勇気を奮い、前方から来る女学生風の女性を直角フェイントで交わした。そこで一息ついたが、後方からはリクルートスーツの女性が迫っていたため、再度加速を上げ、ごみ収集所に急いだ。カラス除けの防護ネットを捲り上げ持っていたゴミ袋を放り投げた。リクルートスーツを着た女が私の背後1メートル以内に迫っていることが感じ取れた。先ほど女学生風の女性を抜き去っていたことで私は気持ちに余裕を持っていた。私はリクルートスーツの女が背後60センチまで接近した瞬間、180度方向転換しこの女を置き去りにした。
俗に言う「クライフ・ターン」である。
何とか窮地を脱した私は階段で2階に上がった。2人の女性を冷静にやり過した後だったため、私は少し気を抜いていた。新たな刺客が現れたことに気が付かなかった。階段を上りきり2階の廊下に足を踏み入れようとしたところで、今度はビジネススーツに身を包んだ、私と同年代の若い男性に遭遇した。私は下を向き足元を見ながら階段を上っていたため、顔を上げるのが遅れてしまい、危うく男性にぶつかりそうになった。しかしぶつかる間際に男性の方が軽やかなステップで私をかわし何事もなかったかのように階段を下りて行った。
私は立ち尽くしていた。言い様のない敗北感に襲われていた。確かに私は2人の女性をかわした。それもかなり切れのあるフェイントでだ。しかしどうだろう、2人の女性をかわしたことに満足を感じていたばかりに、3人目の男性に気が付かなかった。その男性は私とは違ってきちんとしたスーツ姿をしていた。これから出社し夕方まできちんと勤めを果たすのだろう。一方で私はどうだろう。前職を辞して1ヶ月経っているのにもかかわらず未だに定職に就けずにいる。預金は残り少なくなっている。それにもかかわらず積極的な就職活動をしないでいる。昨日も結局17:00からアルコールを摂取してしまった。このような生活からは早く脱しなくてはならない。


何の苦しみも感じることなくゴミだしが出来るように、なるべく早く就職しようと思った。