旅行記 9日目 (チェンマイ)

あーあ、入院しちゃったよ。まさか人生初の救急車(レスキューカーだけどさ)での病院搬送・入院を、タイのチェンマイで経験することになるなんてなんだか笑っちゃうよ。体調は、回復しつつあるよ。ただ、咳と鼻水がちょっと出てて、すこし頭が痛いような気もするな。とにかく、最悪な状況って感じじゃ全然ないよ。昨日の夜に病院に運ばれたときは「デング熱」でぼくは死ぬんだって思ったよ、死なないまでも手足の痺れが治らず後遺症が残るんじゃないかなんて本気で思ったよ、デング熱で命を落として、外務省かなんかから家に連絡が入って・・・。大きな病気の経験がないから、ちょっとした衝撃にも、混乱しちゃうんだ。
病院で出された朝食を食べて(ナースがメニューを持ってきて自分で選ぶんだ、ぼくはアメリカンスタイルのトースト、スクランブルエッグ、コーヒー、フルーツのセットをお願いしたんだ)、ベッドに座っていたら、昨日診察してくれた若い医者とは別の若い女医(20歳くらいに見えたけど、まさかそんなに若くないよね)が日本語通訳と一緒にぼくの病室に来たんだ。日本語の通訳は30代後半くらいのやせた女性で、ぼくに「こんにちは。」なんて日本語で言ってきたんだ。いきなり日本語で話しかけたら患者が安心して微笑み返すなんて経験的に分かっているらしく、ぼくはわざと「はぁ〜、どーも。」なんてぶっきらぼうに応対したんだ(ぼくは猛烈に愛想のない対応ができるんだ、まぁ普通にしてればそうなるんだけどさ)。血液検査、X線検査の結果を話し始めたのは通訳の女性だったんだ。「血液検査、X線検査ともに異常ないですね。」っていうから、「そうですか。」なんて無愛想に答えたんだ(変な話だけどちょっとがっかりして同時にほっとして、ちょっと恥ずかしくなったんだ)それで、念のため明朝の体温検査で数値が高かったら、もう一度注射して血液検査をします、なんてことを言われたんだ。注射はやだななんて思ったけど、同時に今の体調なら、その必要はないなって思ったんだ。
若い女医と通訳の女性が部屋から出て行ったらもう完全に暇になっちゃたんだ。それでちょっと考えた末に、昨日泊まったホテルに荷物をとりに行こうと決めたんだ。チェックアウトもまだだし。それで廊下にいたナースに、それを伝えたんだ。英語でさ、もちろん。なんとか伝わって、病院のワゴン車で『アノダード』まで行ったんだ。そしたらもう受付で、「荷物はここにある。チェックアウトも済ませてある。」って言われたんだ。そこにいた女性は相当にぼくのことを興味深そうに見てたんだ。ぼくの左手甲に張ってあるでっかい絆創膏なんかをさ。(そこに注射をさしたんだ)それで、すぐに病院に戻ったんだけど、もう何もすることがないんだ。まだ14時くらいで、部屋にあるテレビを見ていても退屈ですぐにスイッチを切ったよ。ぼくは持ってきた文庫本を読んで暇をつぶしたよ(日本からは2冊の本を持ってきてたんだ、チャンドラー『大いなる眠り』と夏目漱石『それから』。なんだかわかんない組み合わせだけど、ぼくは未だに自分の好きな作家ってのがわからなくて、どんな作家の本でもめちゃくちゃに本棚に入ってるんだ。)だけど1時間ほどしてまた暇になったから、やっぱりベッドに入ってごろごろしてたらいつの間にか寝入ってたよ。そして起きたときには18時くらいだったな。病人だからやたら眠ったな。その後は夕飯にステーキを食べたんだ。例によってメニューから自分で選んで、どうせ保険で落ちるしなんて考えながらさ。夕食を食べたらすぐに寝ちゃったよ、何しろすぐに眠くなるんだ、食後に飲まされている咳止め、鼻水止めのせいでもあるんだろうけどさ。とにかく明日は退院だなって漠然と考えていたよ。